Goods Column, 8


古いカメラにハマる?(その1)

OLYMPUS Pen 1
OLYMPUS Pen 2 OLYMPUS Pen 3
きっかけは、古本屋でみつけた Beginのバックナンバーだった。その1998年7月号は、アンティーク・カメラ特集。ライカなどに混じって、ちょっと目をひいたカメラがあった。オリンパス・ペン。そういえば、中学生の頃持ってたなあと思い出した。1959年発売の、当時大ベストセラーとなった、35mmハーフサイズ・タイプ(注1)のカメラである。もともとは大叔母が使っていたのを私が譲り受け、修学旅行のときに使ったのを最後に、あとは記憶がない。ちょうど実家に帰る機会があったので、まだあるかなあと思い、ゴソゴソと探してみた。あった。ソフト・ケースに入れられていたので、幸いにもコンディションはよさそうだ。ひさしぶり、それこそ実に15年ぶりぐらいに手にしたそれは、見た目の小ささに比べるとズシリと重い(注2)。シャッター・ボタンを押してみる。手応えがないので、フィルムを巻き上げてみようとしたが、ダイヤル(注3)が動かない。どうもフィルムが入ったままでひっかかっているようだ。フタを開けようと思ったが、開け方を忘れている。あちこち眺めて、底のレバー(注4)に気づく。やっと開けてみると、やはりフィルムが入っていた。このフィルムはあきらめて、取り出した。フィルムが空の状態になると、巻き上げダイヤルは快調に動いた。シャッターも問題ない。絞りやシャッター・スピード、ピントの調整もスムーズだ。思えば、この一連の調整作業が、当時中学生の私には面倒くさかった。だから自動露光、自動焦点のカメラの便利さを知ってからというもの、ずっとそれしか使ったことがない。もともとカメラに興味がなかったせいもある。しかし時を経て、この「自動」という言葉からは全く無縁のカメラをいじっていると、やたらに面白かった。絞りのクリック感、ピント・ダイヤルのスムーズな動き、そして「ジー、カシャ」という音と共に落ちるシャッターの感触。まさに精密な機械という感じだ。思えば私は機械式の腕時計やモデルガンの類が好きなのだけれど、それに通ずるものがある。しかもカメラは腕時計よりもいじれる箇所が多く、そしてモデルガンのように偽物ではない。今までカメラに興味がなかったのが不思議なくらいだ。

注1: 35mmフィルムは通常、1コマあたり 36×24mmの枠を使用する。それに対し、ペンは 18×24mmという半分のサイズ。当然フィルム代は安く済むが、その反面画質は落ちる。
注2: サイズは 108×68×44mm、重量は 400gである。
注3: ペンはフィルム巻き上げが当時の一般的なレバー式ではなくダイヤル式(画像右下)。コスト低減が目的とのことだが、操作性はとてもよい。
注4: 画像左下。


「写せるかな?」

そう思った私は、さっそくフィルムを買った。ちゃんと写るかどうかわからないので、とりあえず ISO-100の12枚撮りにした。といってもペンの最大の特徴であるハーフサイズのため、24枚は撮れるわけだ。さて、なにぶん写真についてはシロウトの私は、試す意味で色々な露出条件で撮影してみた。そして近所のラボに現像を頼む。ちょっと緊張して出来上がりを待つ。結果は、、、なかなかのものだった。一番不安だったピントも、まあまあ。驚いたのは1m以内の近距離撮影時の鮮やかさ。ハーフ・サイズとは思えないほどだ。それから曇りの日に絞りを多めに開けて撮ったものは、素人目にもわかるような良いボケ具合だった。これは露出調整がマニュアルのカメラならではだろう。

OLYMPUS Pen 4
結果に気をよくした私は、それからペンについての資料をあさってみた。すると、驚くほどたくさんの文献にペンがとりあげられていることがわかった。「クラシック・カメラ」と名のつく本には、ほぼ必ずペンが載っている。それらによれば、私の持っているペンは1960年発売の「ペンS」というモデルで、一番最初のペンよりも明るいレンズ(注5)を搭載した改良型とのことだ。そしてその D.Zuiko(注6)と呼ばれるレンズは、描写力に定評があるらしい。なんでも、6000円という当時破格の値段のコストのほとんどが、このレンズに費やされているのだとか。なるほど、どうりで写りがよいわけだ。さらにちょっと驚いたのは、ペン・シリーズは累計で1700万台もの数が売れたということ。そしてそれだけの数が出たわりには、現在の中古市場で程度の良いペンSは3万円以上するらしい。うーむ、思いがけず良いモノを手にしてしまったようだ。というわけで私は、ちょっと、古いカメラにハマってしまいそうな予感がするのである。(続く)[1999/6/4]

注5: オリジナルのペンのレンズの F3.5に対し、ペンSは F2.8。レンズの他にもペンSはシャッターも変更された(コパル製、B,1/8〜1/200秒バリオ式から、B,1/8〜1/250秒プロンター式になった)。
注6: "Zuiko"はオリンパスの一連のレンズに付けられる名称。一瞬ドイツ語を連想させるが、オリンパスの瑞穂光学研究所がネーミングの由来らしい("Zuiko"=瑞光)。なお、D.Zuikoの 'D'は4枚構成のレンズであることを示す('D'はアルファベットの4番目)。

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