Goods Column, 5


New York State of Mind.

Live At Yankee Stadium
珍しく音楽ネタをひとつ。私はビリー・ジョエルが大好きなのだけれど、ビリー・ジョエルといえばニューヨーク、ニューヨークといえばビリー・ジョエル、というイメージがある。1949年にロングアイランドで生まれ、以来ずっと主な活動の拠点はニューヨークという彼も、一時期西海岸に住んでいたことがあった。そのときにニューヨークを懐かしんで書いた曲が、1975年のアルバム"Turnstiles"の中の "New York State of Mind" だ。

昔なにかで読んだのだけれど、ビリーの夢は「レイ・チャールズがヤンキースタジアムで"New York State of Mind"を歌ってくれること」と言っていた。ビリーはかなりレイに傾倒しているらしく、娘の名前も確かアレクサ・レイという。こんなエピソードを知っていると、1986年のアルバム"The Bridge" の中のレイとのデュエット曲 "Baby Grand"を聴いたときなんて、どうにも思い入れがすごく伝わってきて、感動した。 果たしてその夢がかなったかどうかはわからないが、ビリー自身のヤンキースタジアムでのライブは1990年に実現している。根っからのヤンキース・ファンの彼であるからして、これも念願だったのだと思う。嬉しいことにこのライブはビデオも発売されていて、もちろん即購入して観た。中盤に、無造作に弾かれた "New York State of Mind"のイントロを聴いたときは、鳥肌が立った。同曲のラストの、サックスのマーク・リベラとのアドリブのかけ合いもシビれた。

しかしもっと鳥肌モノだったのは、アンコールの1曲目、"MIAMI 2017 (Seen The Lights Go Out On Broadway)" だった。ビリー初(そして唯一?)のライブアルバム "Songs in The Attic" (1981年)の最初のこの曲(注1)が私は大好きで、中学生の時からそれこそ何百回聴いたか知れない。ブロードウェイの灯りが、つまりはニューヨークが消えてしまう、という歌詞内容で、歌詞の中にブルックリンやブロンクスといったニューヨークの地区名が随所に登場する。そして「例えばブルックリンでこの曲をライブで演ったときに、その地名が出た時の盛り上がりは凄いんだ」というようなことをビリーがライナーノーツで述べていたのをハッキリと憶えている。だから、それを10何年越しで目の当たりにした(ビデオだけれど)というわけで、自分でも信じられないほどの感動だった。そう、あたかも自分もヤンキースタジアムに居るような。

私はビリーの日本公演を2回観ていて、さらに市販されているライブビデオもひと通りチェックしているつもりだけれど、"MIAMI 2017"のライブ・シーンは他に記憶がない。だからこのビデオ、"Live At Yankee Stadium" は私にとっては宝物だ。



昨年(1998年)、ビリー・ジョエルとエルトン・ジョンという、2人の偉大な「ピアノ・マン」のジョイント・コンサートが実現した(注2)。残念ながら私は日本公演を直接観ることはできなかったけれど、テレビ放映で久しぶりに見たビリーは、口から顎にヒゲをたくわえ、額が広くなり(笑)、そして少し太ったようだった。考えてみれば彼も今年で50歳。すっかり貫禄がついた。いつものようにおどけた調子でステージに登場したビリーが、エルトンと向かい合ってピアノの前に座る。そしてこのコンサートの1曲目 "Your Song"(これはエルトンの曲)をビリーが歌いはじめたとき、それから「日本のファンのために特別に」(注3)と "The Stranger"のイントロのあのピアノ・ソロを弾きはじめたとき、またもや鳥肌が立つのを感じた。[1999/2/16]

注1: オリジナルは"Turnstiles"に収録。
注2: "Face to Face"と題して、オーストラリアを皮切りに、日本でも東京・大阪・名古屋・福岡で公演された。このジョイントのアイデアは1975年くらいからあったという。
注3: "The Stranger"は日本でのみシングル・カットされ、それが大ブレイクした。つまりこの曲によって、我々日本人にとってビリーはストレンジャーでなくなったのだ。

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